聖地巡礼 黒部の山賊になる 4日目、5日目

4日目(8月19日)
快晴です
黒部川の鱒に挨拶してから平乃小屋まで行くことにしました
二日酔いのご主人(笑)に見送りして頂き出発・・・ありがとうございました、また来ます・・・
昨日の入渓点で釣りの準備・・・
渓に陽が入り、ライズが始まるまでコーヒーとタバコを楽しみながら
周囲の景色を目に焼き付けておきます



昨日同様バッタが飛び始めるとライズが始まり
スティミュレーターをロングキャスト・・・
同じく35cm、40cmオーバーのニジマスが顔を出してくれました
ヒットしてからランディングまでの素晴らしい戦い振りに感謝しました



ありがとう・・・ありがとう・・・俺も生きるから、オマエも元気に生き抜いてくれ
私に生きる力を与えてくれた鱒にお礼の言葉をかけながら優しくリリース・・・
さようなら・・・




ところが・・・深場に向けて泳ぎかけた鱒が忘れ物を探すように戻ってきて
私の足元に寄り添い、動かなくなりました・・・
触っても動こうとしません・・・
離れたくない気持ちを押し殺し、涙に霞む鱒の尻を押し出すようにしてお別れしました




岸に戻って登山装備装着・・・渓に一礼・・・船着き場目指して登山道を歩きます
時々立ち止まり、立山の雄大な景色を眺めます・・・
気持ちの違いでしょうか?
アップダウンが延々と続く苦しかった登山道がかなり楽に感じ
船着き場まで3時間弱で到着しました




龍王岳をバックに渡し船が来ました
この時は私一人だけ乗船だったので、船頭さんと釣り談義ができました
「朝一番の便から乗る登山客全員が、あんたの釣りバカ振りを話して・・・あんた有名人になってるよ(笑)」
と言われて嬉し恥ずかし・・・




また平で投宿・・・夕方の釣りを予定していましたが、立山から険悪な雲が成長してきたので中止・・・
やがて谷間に雲が降りてきました
同時に山小屋の無線は遭難情報が飛び始めました
緊迫した会話が頻繁に繰り返されます・・・
どうか皆さんご無事で・・・
平の夜はスタッフ一同と大宴会・・・山と釣りの話で大いに盛り上がります
ここでも私が有名人になっていることが判明・・・
奥黒部で大釣りしたことはバレていました(笑)



5日目(8月20日)
快晴です
平乃小屋を辞して黒部ダムを目指します
いよいよ黒部ともお別れです・・・
素晴らしい釣り、大変楽しく過ごせた山小屋の夜・・・黒部、立山、アルプスの山々・・・
亡き息子との約束を果たせた満足感を噛みしめながらきつい登山道を歩き続けました




ダム近くのロッジで一休み・・・
お盆をとうに過ぎて、誰もいない寂しさと静けさがあります・・・
でも、私にはこの静かな山の雰囲気が好きです




ダムが見えてきました・・・携帯の電波がやっと繋がります・・・
ダムの上は多くの観光客で賑わっています・・・
天空の世界から下界に降りていくような気分です



ダムの上から遥か遠く霞む奥黒部を眺めて・・・
4泊5日・・・人生最長の、人生最高の釣り山行に思いを馳せます
きつかった、辛かった、危なかった、怖かった・・・
でも、素晴らしい釣りの感動があった、山には素晴らしい人々がいた
奥深く、厳しさと美しさを併せ持つ山河があった
ありがとう黒部の山と川
ありがとう黒部の鱒たち
そして、お世話になった皆様、お会いした皆様
本当にありがとうございました



観光客に混じって下山のバス待ちをしていると・・・
ケモノ臭が・・・クンクン・・・私だ!
日焼けと髭モジャ、ケモノ臭・・・長いサバイバルで私は山賊になっていたようです(笑)
下山したらメシより先に温泉に行こう・・・




豪雨の扇沢から車で下山し
近くの温泉で5日分のアカとヒゲを落とします
服を着替えてケモノ臭から人間臭へ・・・
山賊から普通のオヤジになりました(笑)
さあ、美味いメシを食べて、ポンコツで夜の高速を飛ばして我が家へ帰ろう!


・・・また一つ人生の夢を実現できました
山賊FlyFisher 還暦 定年・・・でも、まだ夢半ば・・・
次はどの夢を追いかけようか?
帰りはそんなことを考えながら暗闇の高速を走りました

聖地巡礼 黒部の山賊になる 3日目

3日目(8月18日)
快晴・・・ヒュッテのご主人に入渓点を教えていただき
夢の黒部川源流域に立つことができました・・・
ここまで軽く20年以上・・・長かった
息子よ、素晴らしい釣りをしよう・・・空からの応援頼むぞ・・・



今回のタックルです
K.Bullet Classic 11ft #3〜4に シューティングスペイライン#4フローティング の組合せ
古めかしいデザインながら 源流から湖まで
20cmの豆イワナから 60cmオーバーのモンスタートラウトまで楽しめるスペックです
食料、救急セット、レインウェアなどはアタックザックに入っています




足回りはウエットウェーディングを装備して挑みました
ゲーター、シューズともmont-bellの沢登り用です
LEKIのポールは折り畳んで腰に付け、 激流の渡渉時に使います
単独なのでザイル渡渉はやらず 膝上あたりまでの水深を渡渉点として
LEKIをフルに使いましたが それでも結構きついです
ヘルメットは常時着用です




シューティングヘッドが彼方にブッ飛んでいくロングキャスティング
そして水面が炸裂・・・
絵に描いたようなフライフィッシング・・・夢の始まりです




大型のスティミュレーター(バッタサイズの毛鉤)にジャンプして襲いかかり
ヒットすると高々とジャンプしたり 激流に乗って走ったり
… ここには強いニジマスが棲んでいます
魚が強く、流れがきついので ティペット(先糸)は4X(1号)のショックリーダーにしています



40cmを超えるとパワーが素晴らしく
追いかけて走ったり、ジャンプに耐えたり… まるで海外のフライフィッシングです
ランディングネットに入らないので浅瀬で撮影
釣れた時は猛獣のような抵抗で楽しませてくれて
ランディングすると大人しくポーズを決めてくれる心ニクい演出の鱒たちです
えぇと・・・私は「鱒」であればなんでもウェルカムの「雑食な山賊」です(笑)



黒部川は規模が大きいうえに水量が多く、急勾配なので激流・・・
釣りも遡行も技量を試されます
流れの音は「ザァ~」ではなく「ドォォォ~」と太いです
「黒部で流されると死ぬ」 とは聞いてましたが 流れを目の当たりにして納得しました
黒部へ釣りに行かれる方は
しっかりとした装備と充分なトレーニングを積んで挑んで頂きたい と思います




要所要所で小さくとも30cmを超えるニジマスを連発・・・
どれも猛獣なので一匹一匹を大事に、持てる技量を出し切って応戦・・・
ランディングして、楽しませてくれた鱒を称え、息子に見せ、優しくリリース・・・
夢は儚く短いもの・・・と思っていましたが、黒部の夢は延々と続きます・・・
映画のような素晴らしいロケーションにただ一人・・・
そして映画のようなフライフィッシング・・・
本当にここは日本なのだろうか・・・?
雨、雪代、増水、強風・・・など良い釣りができるチャンスは数えるほどしかない
と言われる黒部で
素晴らしいコンディションを与えてくれた山の神に深謝しながら釣りを楽しみます



また素晴らしいポイントに着きました・・・鱒がライズを繰り返しています
いつもならチャンスを逃すまい、とすぐさまロッドを振りますが
ここでガツガツするのは勿体ない・・・と思ってお昼にしました
赤牛岳か水晶岳か?3000m級の稜線が意外と間近に見えます
頭上にタカ?ワシ?が舞い、急斜面を登るカモシカが見えます
河原に目を落とすと、時々カワウソのようなやつが顔を出します
頭、足、ロッドにトンボが留まり、バッタが所かまわず飛び交っています
目の前のポイントで鱒がライズを繰り返しています・・・
なんという眺めでしょう??・・・これを見るだけでも来る価値があります



非日常の世界でお弁当をモグモグ・・・どんな高級料理よりも美味い!
かつての山賊もこんな素晴らしい黒部を楽しんでいたのでしょう・・・
競争社会で37年間戦ってきて間もなく定年・・・けっこう疲れた・・・
そして老後はどうやって生きていこうか?などと悩んでいたところに
息子の死が追い打ちをかけるように、生きる力が失われていた私ですが
「焦らなくていい、頑張らなくてもいい、鷹揚に生きていこう」
と思い直し、ロッドを握って立ち上がることができました
苦労してここまで来た甲斐があった・・・黒部に感謝です




満ち足りた気持ちでフライをシュートすると、ヒット!





私の気持ちを察してくれたのか、立て続けにイワナが顔を出してくれました
30cmに満たないのですが実に強く逞しい・・・イワナ達に励まされているようです




徐々にイワナの勢力が増して、最後のポイントへ・・・
この先は、多くの遡行エキスパートの命を奪ってきた神の領域・・・上の廊下
別名「神の廊下」です・・・
丸太のようなイワナが棲んでいるのはわかっていますが
単独遡行は間違いなく神に命を捧げることになるので
その領域の入口を守るイワナの姿を見て納竿としました
上の廊下に一礼、そしてイワナ達に一礼・・・渾身のフルキャスティング・・・




ニジマスかと思うような猛烈なアタックと強い引きに必死に、感謝を込めて応戦・・・
9寸イワナ、続いて尺イワナが出てくれました・・・
美しい、そしてなんと逞しいのだろう・・・
夢の舞台は、夢に描いた釣りで締めくくることができました





渓の神に、山の神に一礼してヒュッテへ帰還・・・ご主人が出迎えてくれました
「どうでしたか?」
「ありがとうございます、たいへんいい釣りができました」
「夕食の用意ができましたので、今夜も宴をやりましょう」
登山の皆さんと飲んで、食べて、歌を歌い、山の報告、釣りの報告・・・
一期一会の旅は素晴らしい「おもひで」を残してくれました・・・

聖地巡礼 黒部の山賊になる 2日目

2日目(8月17日)
翌日は快晴・・・もうひと釣りしてから奥黒部に向かいます




朝は水温が低く、魚の活性が低いのを承知で渓に入ります




ほどなくして出ました
昨日と同じようなポイントで、大型フライに食らいついてくれました
その後もう一匹追加・・・サイズは25cm程度ですが、引きの強いイワナ達で
感覚的には泣尺くらいの強さがあります
ありがとう、また遊びに来るから元気でな・・・




山小屋に戻って釣りから登山装備に変身・・・多くの登山客が渡船待ちの休憩に来ています
談笑や情報交換しながら装備を整えて
女将さんに明後日の再会を約束・・・船に向かいます




湖面を吹く風が涼しい・・・
居合わせた山ガール(ソロのガチ装備)とお話が盛り上がり、ヒュッテでの再会を約束しました




船を降りて相変わらずのアップダウンを行くと、黒部湖はやがて黒部川に・・・
ついに憧れの黒部川源流域に入り始めました
川面から50~100mくらいの高度を歩くのでスリル満点です



途中で山ガールと再会して給水、休憩・・・そして私は再び後攻でハシゴ地獄を堪能・・・
午前は晴れていたのに、午後になると険悪な雲が現れて雷雨に・・・
雨フル装備にしてさらにペースダウンして歩きます・・・




中盤を過ぎてハシゴ地獄もそろそろ終わり・・・
雨も小降りになり、雷も遠のき、危ない所も少なくなってきました
あと少し・・・
心に余裕ができて川のポイントを観察しながらのんびり行きます





16:00 コースタイムの倍の4時間をかけてヒュッテに到着・・・苦しかった
でも、無事に到着できたのでヨシとします
宿泊の手続きを済ませると山ガールと再会・・・お互いの無事を喜び合います
石鹸の香りがする彼女を前に、私がケモノ臭を放っているのに気づきました(笑)
ヒュッテは登山客で賑わっているので、風呂は夕食後の楽しみにしました





山ガールと席を並べて夕食・・・
サバイバル釣行について根掘り葉掘り訊かれます
他の方も私の周りに来て、聞き耳を立て始めました・・・
道があり、山小屋がある一般登山の方々には私のサバイバル釣行が信じられないようです
「超人」「ヘンタイ」とお褒めの言葉を頂きました(笑)
夕食後はキャンプされている同年代の釣りパーティーの方々と酒を片手に談笑・・・
同年の男性と1つ年下の女性と若者で、今日釣り終えて明日下山するそう・・・
ありがたいことにポイントの情報を教えていただきました
そして「初見で、単独で奥黒部に釣りに来るのは、かなりのヘンタイ」
と、お褒めの言葉を頂きました(笑)
大変素晴らしい山小屋の夜を満喫できました