遭難ってするんですか?その2

親しい海釣り師 A君に私の遭難対策を教えています
前回では登山、源流釣りなど山に関わる遭難の実態と
遭難対策の重要性を理解してもらい、目先で必要な装備までお話しましたが
目先の装備をすぐ揃えれるわけではないので、机上でできそうな対策も
並行して進めようということになりました




机上の対策で一番重視しているものはルート選定及び登山GPSで
私が使っているYAMAPを例にお話を進めてみました
スマホにアプリを入れ、地図をDLしてGPSとして使い
かなり正確な現在地やルートを確認しながら山行ができるもので
地図、コンパスで苦戦した時に比べて大変助かっているアイテムになります



まずは基本となる地形図を見てルート選定できるよう練習する・・・です
これには「地形図に慣れる」ことが必要ではないかと考えています
ナビ(GPS)で育ち、地形図など見たこともないA君には
国土地理院の2万5千分の1地形図は未知なるものなのですが
これが読めないと行きたい源流も選べないし、ルートもわからないし
地形図ベースの登山GPSも読めません・・・必須項目と言ってよいでしょう
まずはネット上の地形図を眺めてみるとA君も川、道、等高線くらいはわかりますが
その他はあまりわからない様子です



地形図には地形の全ての情報が表されています
記号:大変多いので、山に関係するものをまずは覚えてもらいます
等高線:10mごとに記され、50mごとに太線で記されています
 密度が高いところは急勾配になります
 また、川の部分の等高線の形状から、周囲より低く(深く)なっていることがわかります
道:破線は概ね登山道、実線は作業道くらい、二重線は一車線くらいの車道
など、この図で私が見えるものは
・川の北に車道があり標高2550m付近でクロスしてさらに北に登山道がある
・川の南、標高2350m付近から西(山頂)に向かってえぐれた崖がある
 水線がないが、雨天時は川に、春は雪渓の可能性がある
・川は標高2100m~2450mくらいまで勾配がきつく、その先は緩くなる
・標高2400m付近から西は川に崖があるので遡行の難所となりそう
・標高2400m付近が森林限界、それより上はハイマツになり
 視界が開ける可能性がある、ライチョウが見れる可能性がある
など、大まかに説明し、少しでも地形図に慣れてもらうことで
見たときに立体的に、具体的に地形が想像でき
安全なアプローチルートや遡行、無理のないスケジュールを立てられるよう
またテン場やエスケープルートなども検討できるよう頑張ってもらいます
この山域の地形図の磁気偏角についても少々解説・・・
コンパスの示す北と、地形図上の北は西偏7°50′のズレがあり
本州は概ね西偏8°くらいであることを知ってもらいました




地形図は正しく記されていても自然現象により状況が変化することも・・・
これはある源流ですが、西→東→南東に流れています
上に細い支流があり南東で合流しています
支流は、普段は水のない枯れ沢の可能性もあります
等高線密度の高いところは遡行が厳しそうですが、他は問題ないようにも見えます




近くの別の源流です・・・等高線密度の高いところに三つの滝のマーク・・・
下と真ん中の滝は周囲も崖のようで釣り師には難敵です




そこで前述の源流をよく見ると、赤丸の等高線密度が高いところは
密度だけでなく、等高線のカーブがきついことから谷が深く暗いであろうと推測できます
また、大水や地震により地形が変わって滝になっているかもしれないと疑います
滝の直登ができないかもしれないし、滝周囲も険しく危険に思えますから
遡行のルートとして
①滝の直登、滝周囲の崖を直登(できれば避けたい)
②滝から下がって標高1800m付近を北東にトラバースして細い支流を遡行
 標高1950m付近を南西にトラバースして源流に戻る
③支流の合流点まで下がって、支流を遡行し
 標高1950m付近を南西にトラバースして源流に戻る
という、滝の直登を含めて3ルートを考えました
②③は道がない山中を歩くので、こちらも危険度は極めて高いと心得ます
周囲はおろか足元も見えないくらいの藪も多く
数m進むだけで簡単にルートをロストしたり滑落します
そしてロストに気付いても元に戻れないことも多いです
そこでGPSが道迷い対策、安全装備が滑落対策になります
(GPSが無い時代に私は何度もロストをしています)




地形図に慣れたらGPSです
私が使っているYAMAP無料版を例にします



YAMAPを見ながら・・・
地形図に100年前の森林鉄道跡の実線が記されていましたが
現地は崩落が激しく道の半分以上が消滅しており、懸垂下降もしました
崩落していない所は、進む方向が全く分からないほど深く密度の濃い藪・・・
ですからGPSを目の代わりにして、全体重をかけながら藪を押し進む
「藪漕ぎ」ならぬ「ラッセル」をしていましたが
GPSが無かったら、とんでもないところに進んでしまっていたと思います
登山GPSは現在地と自分が向かう方向を示すので
正しく進んでいるのか?が即座に判断できます




この時に登山ウォッチで方角と高度を確認・・・
ここで地形図を読む練習が生きてきます
磁気偏角を考慮した方角と、等高線上の高度とウォッチの高度が合っているか?
つまり、GPSが正しく作動しているか?がわかります
GPSが絶対ではないので二重、三重に保険をかけて身の安全を確保します




スマホ他電気モノの保険・・・モバイルバッテリー
節電のためにスマホを機内モードにしてGPSを使いますが
写真を撮ったりするのでバッテリーはけっこう消耗します
夜だけでなく昼間の山中でもヘッドランプを使います
小型ランタンのバッテリーは数時間の容量です
従って大容量モバイルバッテリーは必携・・・
私は日帰り予定でも急なビバークを想定して
メイン20000mA、サブ10000mAを持っていきます
安いものでよいので選んでおくとよい、とA君に教えました




GPSが正常でも深い谷など衛星の電波が届きにくい時に誤作動があります
GPSの軌跡だけではピンポイントの登攀、下降点がわかりません
滝など難所を高巻き(迂回)する時の登り口、降り口にテープを貼って目印にしています
ゴルジュをトラバースする時も難しいポイントにテープを貼ることがあります
写真はとある険しい源流の高巻き下降点・・・
降りて、少し離れて見た時にわかりづらかったのでテープ目印しましたが
帰りに迷うことなくここから登り返していけました
道がない所は本当にわかりづらく、覚えにくく、見間違えやすいのです



行きと帰りでは渓の様子が全く違って見えることがあり
高巻き下降点から10mほど遡行して振り返り、風景写真を撮ることもあります
流れ具合、岩と木の配置など特徴を抑えておき、帰りに写真を見てテープ探しをします
類似する風景が多いので、GPSの軌跡を追いながら、近付いたところで写真と風景を照合
ここで間違いないと確信したら目印探し・・・目印を見つけたら登攀開始・・・
ここは登れるポイントが一箇所だけ、先は滝、GPSの地形図に滝のマークはありません
そこまでするの?とA君・・・そこまでするんです、山をナメると本当にヤバいよ~(笑)




続いて観天望気(かんてんぼうき)・・・雲や自然現象を見て気象を判断することです
人気な山、都市に近い山などは携帯の電波が届くところもありますが
源流釣行では電波はまず望めないと思った方がよく、携帯の気象情報が確認できません
昔ながらの観天望気で行動をしていきます





GWの源流では晴天微風、気温6~7℃の14:00頃から釣りを開始しましたが
山は午後に天候が崩れることが多いので、西の空を見ながら釣りをしていました
16:00頃に西側の稜線を上る雨雲を確認・・・スマホのズームをMaxにして観察・・・
雲の速度、風の吹き方から、1時間程度で雨が降りそうかな?
雲の厚みからすると雨量は少ないと思えますが、急激に発達することもあるので
釣りをやめてテン場探しを開始・・・
良さそうな場所を見つけて、テント設営中に雪がちらつきはじめて気温は0℃に・・・
天候がそれ以上悪化しなかったのは幸運でしたが
天候予測したことで慌てず焦らずビバーク体制に入ることができました




A君に勉強してもらうために雲の写真を見てもらいました・・・
雨雲・・・流れや発達が速いやつはヤバいです



レンズ雲です・・・嵐に発展することがあります
こいつを見たら私は逃げの態勢に入ります



積乱雲・・・いわゆる入道雲です
真下は雷雨、時には嵐のようになります
晴天でも局地的に発生することもあるので夏の午後は要注意
これが連続したものが線状降水帯というやつで
短時間に集中的に豪雨をもたらします




かなとこ雲・・・積乱雲が発達した最狂のやつです
真下は豪雨、雷嵐、雹など何でもござれの凄いやつ
積乱雲と同様、夏の午後に突如として現れ、山を蹂躙します




山で観天望気を誤るとどうなるか?
真夏の日中、標高1500mでも源流の気温が10~15℃などはよくあること
山の風雨は凄まじく、風速20mを超えて歩行困難なこともあるし
吹き飛ばされて滑落することもあります
そして体感温度は「-1℃/風速1m」
つまり、山で風雨に晒されると、夏でも体感温度は氷点下・・・
唇は紫色になり、歯がガチガチ鳴り、指が動かなくなるほどの寒さです
やがて体温が奪われ続けて低体温症→凍死・・・これが「真夏の凍死」です
そして夏の午後は荒れることがあるので、空の観察がマスト
午後に入ったらテン場候補や避難小屋も探しておくと安心・・・
山の天候変化に敏感になるのは非常に大事なことを理解してもらいました





去年の真夏の例・・・東北の標高1000mソコソコの山上湖
14:00頃までは晴天、気温30℃前後でしたが、突然西から冷風が吹き始め
登山用レインジャケットを着込んだと同時に嵐に襲われました
吹き飛ばされそうな暴風と滝のような雨、気温は10℃以下に急降下
近くの作業小屋の軒でタバコを吸いながら雨宿りしていると
ずぶ濡れのルアーマンがヨロヨロになって逃げ込んできましたが
顔面蒼白で唇は紫色・・・急いでシェルターを被せてあげて体温低下を防ぎました
観天望気ができるか否か?雨装備が有るか無いか?で生死を分けることもあります
写真は嵐が弱まって釣り再開したところです




梅雨が明けたら夏本番、源流も本番・・・
今年も素晴らしい「おもひで」をつくろうと思います

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