私と息子のフライフィッシング

私のフライフィッシングは友人が病に倒れたのをきっかけに長い休止をしていました
そして、再開するきっかけは友人の復活ではなく、息子の一言によるものでした




私がフライフィッシングを始めたころは息子は幼児でした
多分、私が何をやっていたのかはわかっていなかったと思います
また、近所の池に釣りに連れて行っても、あまり興味を示しませんでしたが
小学校に上がった途端に「お父さん、僕も山に行きたい」と言いました
釣りもわからない6歳の子にフライフィッシングは難し過ぎるし危険なので
海で五目釣りをしようと言ったのですが
内気で素直な息子が頑として譲らないのには驚きました・・・
ならば渓流で遊び、フライフィッシングの真似事をすれば気が済むだろう・・・
釣れることはありえないので、次からは海に行く、と言うだろう・・・
という程度の思いで、山岳渓流に連れて行くことにしました




車止めから徒歩30分で行ける自然豊かな山岳渓流に連れて行きました
6歳の小さな子に遡行は無理ですから背負って遡行し
安全な場所でロッドを持たせてフライフィッシングの真似事をさせてみると
なんと、釣ってしまったのです・・・それも2匹の野生イワナを・・・
運と言ってしまえばそれまでですが
大人でも容易ではないフライフィッシング・・・運だけではなかったようです
何も知らない息子が無邪気に、無心に父親の真似事をしての結果でした
短時間の釣りをした後は水遊びをして、岸でお弁当を食べて帰りましたが
それがたいへん楽しかったようで、釣りに行くたびに着いてくるようになりました
息子が釣った魚はその場で活〆させ、持ち帰って料理させ
カミさんに食べてもらい、自分(息子)も食べることで
狩猟を体験し、命の大切さ、ありがたさを学んでもらいました



6年生の頃には息子は心身ともに大人顔負けのフライフィッシャーになりました
管理釣り場では上級エリアの大物をヒットして周囲の大人達をどよめかせ
山では、険しい難所を乗り越えて源流に降り立ち、ガンガン釣ります
普段は普通の小学生でしたが、ロッドを握れば釣り師の面構えになりました



そして夏休みは思い出造りにテントを担いで源流テン泊釣行に行きました
長く辛い行程、精神と体力の限界を試される難所の登攀下降、クマとの出会い
頭まで水をかぶりながら、流されながらのザイル渡渉
テントが凍るほど極寒の長い夜・・・
並の小学生なら泣き出すようなサバイバルを楽しむかのように味わい
無事に家に帰る喜びを味わってもらいました



中学、高校は部活が忙しく、専門学校の頃には釣りから遠ざかり
就職してからは別の趣味を始め・・・
気が向けば、また親子の釣りを再開すればいい
と思って好きにさせ、釣りの話をしなくなっていきました




随分と時が流れたある日、久し振りに息子と釣りの話をしました
 息子:父さん、あの時みたいに源流テン泊釣行したいな
 父:うん、行こうか
 息子:父さんもう歳だし、重いものはオレが背負うよ
   父さんの夢だった黒部に行こう
 父:行くか!・・・釣り道具も、装備も、もう殆どないから準備しよう
   そうだなぁ・・・来年の夏でどうだい?
 息子:わかった、約束だよ、楽しみだね
 父:うん、約束だ
こうして13年振りにリハビリを兼ねてフライフィッシングを再開
仕事が不定休の息子とはタイミングがとれないので
まずは私が単独で釣りのリハビリと準備、トレーニングを進めていきます

   




年が明けて登山訓練、源流テン泊の練習・・・よし、夏はいけるな・・・
体力のある息子のリハビリは管理釣り場だけで十分だろう・・・誘ってみるか・・・

     



そう思っていた時に、息子は急逝してしまいました・・・
内気だけど優しく、逞しくなった息子のあっけない死・・・
これからの人生を謳歌してほしかった、親子で釣りを楽しみたかった、他にも・・・
葬儀を行って息子を旅立たせた後は放心状態・・・
理由や状況はどうあれ、守ることも助けることもできなかった自分を責め
約束を果たせなかった申し訳なさに涙し
仕事から帰っても、休日も、何もする気になれず、ぼーっと過ごすようになりました



すると・・・
四十九日の法要を済ませた後に、息子が夢枕に立ちました
山の花畑にしゃがむ小さな息子が笑顔で私を見上げ
「父さん、山に釣りに行こう」と・・・
花畑に居たのは、無事天国に行けた、ということでしょう・・・




私は「はっ!」として飛び起きました・・・
GWの源流テン泊釣行練習(5/1~5/2)の深夜の怪現象を思い出したのです
息子はGWが明けてから急逝しましたが
GWの時に息子の生霊(いきすだま)が訪ねてきてくれたのではないか・・・?
息子とのテン泊は20年も前・・・
もう還暦目前の弱ったオヤジが
あの時以来の、あの時以上に険しいルートを辿っての釣行でしたが
靴ずれひとつ起こさず、本当に何事もなく帰れたのは
もしかして息子の生霊が見守ってくれたからなのではないか・・・?
 ※生霊:いきりょう、いきすだま
  生きている人間の霊魂が体外に出て自由に動き回るといわれているもの



夢の出来事、GWの出来事・・・
冷静に考えるなら、どちらも私の妄想と都合の良い解釈になりますが
無気力な私に、少しやる気が出てきたことは事実・・・息子に感謝しました
約束を果たそう、遺影をポケットに忍ばせて、テントを担いで山に行こう
遺影がボロボロにならないようにしなければ・・・
息子とともにきつい山を登り、道なき道を乗り越え、ザイルで渓に降り
息子とともにフライフィッシングを楽しみ、夜のテン場で息子と語り合おう
親子揃って飲めない酒をちびちびやりながら笑い合おう
それまでは花畑で待っててくれな・・・



また私のフライフィッシングが再開しました
夏の休暇に素晴らしい「おもひで」を造れることを夢見ています

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